メウはどうやら、俺と
実夢にしか見えない存在のようだった。
小学校に上がり、中学になっても、ずっと俺たちは一緒に居た。
相変わらず実夢は無口だったが、通訳をかって出てくれたメウのおかげで俺は実夢と居られたんだ。
実夢の顔を見るだけでも、ある程度は解るところもあるにはあるが、それでも言葉は大事だ。
いつもキツイ言い回しだが、メウは実夢の思った事をいつも素直に言ってくれた。
おかげで今、俺は実夢の気持ちに対して誤解はないつもりだ。
それは確かに感謝している。
だが、成長するにつれてどんどん輝きを増す実夢に、俺は欲望を抑えきれなくなってきていた。
実夢の気持ちを知っているからよけいに、男の本能が疼くんだ。
俺の性欲が暴走するたび、メウの罰は激しさを増した。
で、結局、高校生になった今はさっきのとおりだ。
もはや、これって調教プレイ? って感じ。
俺は実夢の顔を横目に見ながら、カバンをそのへんに放り出す。
てきとーに自分の机にある椅子に腰掛けた。
勉強なんかする気はない。
実夢の顔をぼんやりと見つめた。
窓から差し込む夕日に白く輝いている。
ひいき目で言うんじゃないけど、そのへんのグラビアアイドルなんかには負けないくらい可愛いと思う。
実際、街でスカウトされる事もたびたびあった。
ま、いつも俺の後ろに隠れちゃって話にならないんだけどね。
「ん……」
また、実夢が寝返りを打つ。
シーツの衣擦れの音と共に、成長してもあまり変わらない背丈と胸が、こちら側を向いた。
ベージュのセーターを着た、丸く細い肩に日の光が当たり、柔らかく反射する。
それまで顔に掛かっていた青い髪が、さらりとベッドに落ちた。
俺は、今までずっと……そう、ずっとその顔を見てきた。
なんてーか、いつも一緒だからホントに兄妹みたいだ。
でも他人。だからお互いの気持ちがあれば、そういう関係になっても良いと思う。
もちろん、ちゃんと避妊はする。それは責任だからな。
でも、メウがいる。
ちらりと、その空中に浮かぶ不思議な存在を見た。
こいつはなんなんだろう。
「なにヨ?」
俺の視線に気付いて、ひよひよと近寄って来る。
こいつは自分自身を、実夢の力で生まれた存在だと言った。
「なんでもねーよ」
いぶかしげに俺の顔を覗き込む。
「ふん?」
ああ、もう。
俺は目を逸らし、また実夢を見た。
「……ん……」
彼女は目をゆっくりと開けた。
俺は軽く笑って挨拶した。
「おはよう」
その身体を片手で支えながら、静かに起こす彼女。
「ん……おはよう。
博樹……」
衣擦れの音と共にベッドに座る姿勢になる。
目を手の甲で何度か擦った。
「……」
まだ寝惚けてるのか、茫洋とした眼差しを俺に送る実夢。
その肩にメウが、すっと移動して乗った。
「博樹のヤツ、またエロいこと考えたんで、お仕置きしたトコサ」
実夢は無言だった。
ふいに、俺を見ていた視線を床に落とす。
息を軽く吸って、止める。
「……博樹」
そう言って上げた瞳は、さっきと打って変わって強く輝いている。
メウはその横顔を見て、慌てる。
「えっ! ちょ、そんな……」
なんだなんだ、なにが起きるんだ。
俺はよく解らないながらも、とりあえず答えた。
「な、なに?」
彼女の顔に、桜が咲くような淡いピンク色が広がった。
「……して、もいい、よ?」
俺の心臓が、大きく跳ねた。
メウが叫ぶ。
「ダメ! ダメだヨ! まだ無理だヨ!」
俺はそれを無視して、椅子から立ち上がった。
「ホントに、いいのか?」
コックリと頷く実夢。
それに反して、わめくメウ。
「ダメ! ダメだ! エロ樹! 来んな!」
しゃん!
シストルムが打ち鳴らされた。
実夢の目の前にある空間が、ぽっかりと丸く切り取られた。
燃え盛る炎を身に纏ったライオンが、俺に向かって躍り出て、空間が閉じる。
今までのヤツより数倍、身体がデカい。
どう猛な赤い眼。牙も爪も鋭い。
そいつが咆吼を上げ、一気に俺を襲った。
次の瞬間、メウが息を飲んだ。
「な……?!」
ライオンは俺をどうすることも出来なかった。
その爪も牙も、俺の身体を素通りしたんだ。
実夢がまた、コックリと頷いた。
「……来て……」
両手を天使の翼のように広げ、笑みを零す。
「ああ」
俺は一歩一歩、彼女の元に近づいた。
激しい獣の叫びと攻撃が俺に対して繰り返される。
だが、もうそれは虚しいだけだ。
「実夢」
俺はその細く華奢な身体に両腕を伸ばした。
彼女はふわりと立ち上がって、俺の背中に腕を回す。
俺たちは初めて抱きしめ合った。
「……博樹……」
頬と頬が触れ合い、お互いの心臓の鼓動が相手に伝わる。
実夢の髪から花のようなシャンプーの香りがする。
実夢の身体は、しなやかで柔らかい。
そして熱い。
メウの攻撃が止んだ。
シストルムを鳴らし、ライオンを消し去る。
「そっカ……」
音もなく実夢の後頭部のあたりにやってきた。
俺の目の前だ。
「実夢……もう、いいんだネ?」
低く静かな声で話し掛ける。
実夢は悲しげに答えた。
「……ごめん……今まで、ありがと……」
「うン」
メウは少し離れた。
シストルムを高く掲げ、強く何回か鳴らす。
やがて、メウの身体が金色の光に包まれた。
ぼんやりと幻のように透けながら、徐々に実夢の背中に吸い込まれていく。
そうか……ホントに実夢の力、だったんだ。
「じゃ、あばヨ!」
メウは最期の言葉を残して、実夢の中に完全に入ってしまった。
静かだ。
強かった赤い日射しは、もう見えなくなっている。
空はまだ明るいが、それでももう、夕闇が迫っていた。
ぽつり、と実夢が話す。
「……メウは……わたし……」
俺はただ頷いた。
「わたしの……博樹への……恐怖」
「うん。あの時は、ごめん。ごめんな」
実夢は、ふるふると頭を左右に振った。
髪が俺の頬を撫でる。
くすぐったい。
ふと、彼女が俺を離す。
俺の目をじっと見て、瞳を閉じた。
「ん……」
かすかにアゴを上げ、唇を突き出す。
キスを待つ体勢だ。
――ゴク……
俺は思わず、生唾を飲み込んだ。
震える手で彼女の細い肩を包んで、顔を近づけていく。
――ちゅ……
唇が重なる。
少し冷たい彼女の唇の感触。
それが俺の唇を押し付けられ、変形する。
一気に頭に血が上って来る感覚にめまいがした。
その血流の音が聞こえるようだ。
「んん……」
俺は唇を離そうとした。
あまりの興奮で倒れそうだった。
だけど。
「……ん……ちゅ……ぷ」
実夢は強引に俺の頭を抑えつけ、離そうとしない。
だんだんと情熱的になる彼女の唇。
「んん、んろぅ……」
唇を押し付けながらも、その間から舌を出す。
閉ざされた俺の唇の隙間を舐め、優しく開かせようとしている。
「ふぅ……ん」
彼女の吐息に甘さが混じる。
俺は彼女の望みに応えた。
「んぁ……ん、じゅっ、ぷ」
大きく開かれたお互いの口の中で、舌が別の生き物のように絡み合う。
「あー……ん、るぅ、ん」
激しい大人のキス。
俺たちの口の周りは、もうベトベトになってしまった。
だが、もうそんなことには構わず、俺たちは行為に夢中になる。
頭を振り、角度を変えては、その粘膜を愛撫し、求め合う。
「んはぁ……っ、はぁ、っ……」
彼女は俺の髪に指を絡め、ぐしゃぐしゃにした。
俺は彼女の身体を制服の上から、強く手でまさぐる。
「ん、んん……あー……」
大きく口を開けたまま、ゆっくりと唇を離す実夢。
突き出された舌から、唾液が橋になって伸びた。
目は潤み、焦点が定まっていない。
顔全体が真っ赤になっている。
「……あ? ……当たって、る……」
俺のペニスが彼女と俺の腹の間で、びくびくと焦れていた。
それも初めての経験で、俺はそれだけでも気持ちよかった。
「あ、うん……えと」
俺がどうしようかと思っていると実夢はニッコリ微笑んだ。
「……勉強、した、よ?」
俺はその意味が解らず、戸惑ってしまう。
だが彼女は躊躇なく身体を屈め、両ヒザを突いた。
「えっ」
彼女の鼻先に、俺のいきり立つモノがある。
ちょっと匂いを嗅ぐように顔を近づけた。
「……」
無言で目を閉じて、俺の膨らみにまるで猫のように頬を擦りつける。
頭を回すようにして、その感触を頬や唇で楽しむ。
「うあ……っ」
そんな勉強、どこでしたんだ。
ひとしきり、それをやってから動きを止めた。
実夢は切ないような上目遣いで、じっと見上げる。
「……」
それは、なにかの許可を求めているようにも見える。
俺はよく解らなかったが、首を縦に振った。
すると、急に顔を明るくほころばせた。
手早く俺のズボンのジッパーを降ろす。
「ええ?!」
中から出てきたグレーのトランクス。
その突き出した部分の先端はもう、変色していた。
「……っ!」
彼女は息を飲んだ。
おずおずと手を伸ばし、触れる。
俺はつい、反応してしまう。
「ん……!」
彼女は、びくっとして手を引っ込めた。
また俺になにかを聞くように、視線を向けた。
「いや、大丈夫。てか、その、もっと、触って……ほ、欲しいかな」
語尾はほとんどかすれてしまう。
だが、彼女は笑って、大きく頷いた。
実夢はトランクスの前の窓から、指先を入れてペニスをつまみ出した。
「……」
なにやら真剣な眼差しで見つめている。
ちらっと一瞬だけ俺の顔を見て、すぐ目を戻す。
こく、と頷いた。
彼女の両手が、俺のモノを包んできた。
「ん……」
その手がゆっくりと、前後に動かされる。
自分でするのとは違う、ぎこちない動きが俺の欲情を湧き上がらせていく。
淫らな粘液の立てる小さな音が聞こえる。
「はぁ……はぁ……」
彼女の吐息が俺の亀頭に掛かる。
俺は思わず、懇願した。
「な、舐めて」
彼女は手を止めて、俺の目を見上げる。
そのまま、ずっと見つめながら口を開いた。
「……あ……ん」
伸ばした舌で亀頭の先端部分を、ぺろりと舐める。
今まで感じたことのない感触。
それが俺の背中を駆け上がった。
「ふあっ……」
情けないと自分でも思うような声が出てしまう。
それが彼女に火を付けたのか、見たことのない妖艶な笑みを浮かべた。
実夢は小さな口を精一杯開けて、亀頭をしゃぶる。
「ん……んる、ずぷ、ちゅ……」
俺の亀頭の鈴口を中心に、丹念に舐め回す。
「あ、ああう! 気持ちいいよ、実夢」
俺は彼女の髪を両手の指に絡ませた。
「んふ、んん、んぷ、ちゅうっ……」
彼女は茎の部分を手でしごきながら、先端部分は口にくわえて、快感を与え続けてくる。
「ああっ、あ、あ、いいよ、いい!」
俺は無意識に腰を動かしてしまった。
「んうっ?!」
実夢は驚きの声を上げた。
「あっ、ご、ごめん! でも、その、あんまり気持ちよくて……」
彼女はちょっと拗ねるように俺を見たが、すぐにニコリと微笑んだ。
「……いい……よ」
彼女はまた俺の屹立を口に頬張った。
俺は彼女の頭を両手で持って、腰を突き出した。
「んぅ!」
さっきより奥のほうまで、俺のペニスが入る。
実夢は口をすぼめて、頭を引く。
俺も腰を引く。
亀頭のカリのあたりに口が来たとき、俺はまた突いた。
「んんっ!」
その繰り返しが、だんだん早くなる。
「んふ、ん、んぐ、るあ!」
彼女の口の中を全て犯す。
性器の快感と共に、なにか背徳的な欲望の充足も得る。
俺は夢中で腰を振った。
その動きに合わせて、彼女も舌を使い、頭を振る。
「あ、はぁっ、はぁっ、み、実夢、俺……!」
「んっ、んー、んっ、んん!」
それは了承の声のアクセントだと思った。
「い、イクよ、あ、イク、イク……!」
「んふ、んむ、んん、んんー!」
ぞくぞくと背中が震え、射精感が高まる。
もうだめだ。
「う、うあぁはっ!」
「んぅうっ!?」
俺は熱の塊を、実夢の口腔内に放った。
「はっ、はぁっ、はぁ……あ……」
俺は強い快感に、ふらふらになりながら、腰を引いた。
まだ、びくついているペニスを、引き抜いた。
「ぅあー……」
実夢はとろけるような目つきで、俺を見上げている。
じっとりと汗ばんだ額。
真っ赤な顔。
舌を突き出し、半分開いた口。
その中にはついさっき、彼女の口唇を汚した精液がごろついている。
実夢はその端から白濁が垂れるのを手の甲で拭くと、喉を鳴らした。
「ん……んぐ……」
彼女は上を向いたまま、精を飲み込んだのだ。
「あ、無理しなくてもいいのに」
実夢は今度は手のひらで唇をぬぐった。
ぺろっと舌なめずりをして、上目遣いに微笑んだ。
「博樹の、だから……」
ふいに彼女は俺のペニスをもう一度、口に含んだ。
「うあっ?」
「ちゅ、ちゅぅ……」
尿道に残る最後の一滴まで吸い取る勢いだ。
「ああ、あぅ……」
俺は自分のペニスがまた硬度を増してくるのを自覚していた。
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